⚠エンジンはかけるな。
⚠残念ながらほっこりする話ではない。
前回のあらすじ:約2時間のボンネットバンバンボンボンカンカンコンにゃーにゃー音声の末、無駄だとでも言うように出てこない子猫。
子猫の居場所はエンジンルームの奥底、床部分の隙間だと把握し、右車輪側の隙間(恐らくここから子猫は入るんだろうといった大きさの穴)から、そのへんの草みたいな枯れ木からむしった細長い木の枝を差し込み、中に居座る子猫をツンツンすることで、ビビって出てくれるんじゃないかと思いつく。が、子猫はビビるどころか中の方で枝にじゃれてきた。
始まった我輩と子猫の攻防戦。勝利の行方はいかに――――?!
木の枝にじゃれる子猫はあと一歩の出口位置まで来るものの、その後、一歩が踏み出せないようである。
そして奥に引っ込みそうになる。
その状態でまた奥に行くとゼロからのスタートだ。
どうにかあと少しを踏み出させるべく、枝の先に餌をつけて、差し出してみた。
相当の食いつきである。それはもう枝を食う勢い。腹、減ってるはずだ。そりゃそうだろう。
食らいついて離さない。
その調子だ!
引っ張り出すため力を込めるも、やはり外へと落っこちそうになると枝を口から離してちょっと引っ込む。大した高さではないが(お前が登った高さだが)落ちる気がして怖いのかもしれない。
そんなこんなして退社から2時間半以上が経過。
完全に閉店し、誰もいない敷地内の電気も全て消え、真っ暗な駐車場で1人怪しい動きをしている我輩を警備員が見つけた。何しとんねん、と言われる。その間子猫が鳴いててくれたのが救いで、ほら子猫おんねん、こいつ出さないと動けんのや、と説明。
あらまぁといった風に警備員がエンジンルームを照らしたその電灯が、それくれ!と言いたくなるほど明るかった。なんで気づいたん?と訊かれる。変なこと聞きやがってと思いつつ、鳴いてたからじゃい、と答える。んで、出したら早々に帰るから(放っといてくれ、子猫が中に引っ込んじまう)と伝えると、そうかいな、と立ち去ってくれた。
子猫との戦い再開である。
警備員と話し中、そこまで奥に引っ込んではいなかったが、我輩が餌付き枝を差し込むと舐めて奥へと行ってしまった。
そのまま奥の方にいると、眠りそうになっているんだろう。おとなしくなる。
何度かつんつんして、鳴いてはいるが、これ以上の進展がない。
焦りが最高潮になり、もう闇雲に枝をガシャガシャ差し込んだ(怪我をさせるような固さではないので)。
右車輪から、だめなら左車輪側。
もうとにかく出てくれ!の一心である。
すると先程までの鳴き声とは違う声に変わった。
んまっ
車体下、右車輪側を覗き込む。
んまっんまっ
あああああ降りて容器に頭突っ込んで飯食ってるッ(^o^)!!!!
※飯食うときにんまんま言うタイプだった。
いつの間に!!
我輩の拳よりも小さな子猫の頭、容器に突っ込み夢中に餌を食べているのが見えた。
その瞬間大慌てで運転席のドアを開け、エンジンをかけ、閉める音で驚いたらいかんので閉めずにそのまま乗り込みゆっくりバックした。丁度いい位置にいたが、万が一、轢いたりしないように。
それから1メートル以上は離れたところで一旦降りて確認する。子猫の姿は見えない。だが生け垣付近から鳴き声が聞こえてきた。そりゃ隣で動くタイヤがあればビビって離れるか。
ボンネットを閉め、しばらく生け垣の奥側をタブレットの輝度MAXの明かりで照らしながら(LEDライトは2時間半経過以降に電池が切れた)探してみた。
姿は見えなかったが、2回ほど生け垣側から鳴いていたこと、動く車体に戻る可能性は限りなく低いことから、もう大丈夫だろうという結論に至った。
※念の為エンジンルーム内から鳴き声は聞こえない事も確認済。
ここまで3時間。
時間は0時近く。
我輩と子猫の攻防戦は終了した。
というわけで、ボンネット叩いても出てこない子猫は、
車体横、車輪側から細い棒(感覚が掴みやすいし猫にとってもしなる方がいいので木の枝がベスト)を差し込んで、子猫をじわじわおびき寄せながら餌で釣る。
が最適解である。
ボンネットを開けても見えない子猫なら、基本車輪側から棒を突っ込んだ先の位置にいることが多いだろう。
それをどんなに上からボンネットをバンバンしたところで、子猫からすれば、あ〜上からなんか聞こえますわ(´・ω・`)程度のこと。少なくとも今回の子猫はそんな感じであった。
ちなみにボンネットをバンバン叩いて出てくる猫は、エンジンルームを一時的な休息場所としているだけ、つまり成猫と思われる。他にねぐらはあるのだ。
だが子猫の場合は違う。エンジンルームの中と外を比較した結果、エンジンルーム内の(エンジンがかかっていないとき限定での)居心地の良さに、ここにずっといとこうくらいに思っているんではなかろうか。
また経験値も低い。なのでどんなにバンバンしようが、物音=身の危険が迫っている、という法則性を見出していないし、なんなら音がするだけで雨風しのげるから出たくはないのだな。前半で言ったことと重複するが、自らの意思でそこにいると決め、出たくないのだな。ちょっと考えれば当然のことなはずだが、自分の身に起こったとき、そこを理解できておらず苦戦したと感じる。
恐らく外が安全とわかれば出てくるだろうが、そういう環境でもないとなると、自然に出るのを待っていては身動きが取れない。
動かせば己にとっても猫にとっても地獄と化してしまう。
出したあとはじゃあどうなるのか、と、そういう話もあろうし我輩も多少考えたが、冷静に状況を整理すればそれとこれとは別問題だという結論に至った。殺す殺されるの緊迫した関係性を解消し、状態を元に戻すため、出す。それだけの話である。
ちなみに、翌日から駐車位置は変更した。生け垣のある端が好きなんだが、同じことがあっては困るからな。