ようこそ諸君、我輩はボロボロ皇帝。
いつからか忘れたが、電話をかけてくる度に我輩を指名する御年90歳の品の良い口調の爺さん(客)がいる。
かかってくる頻度は特別高くはなく、年に1回ほど。
大体用件はパソコンのことで、何かしらおかしくなったら対処法を問合せてくるのだ*1
ちなみに我輩はパソコンの操作説明、トラブルを解決する窓口に所属しているわけではない。
ではないが、金をかけずに電話で解決したいと助けを求めていたら、なるべく応えるようにしている(どんな家電に対しても)。だがソレには条件がある。
・訊いたことに答えてくれること
・状況を説明できること
・協力的であること
この3点である。
どれか1つでも欠けると電話では無理がある(もしくは倍以上の時間がかかる)。
中でも一番大事なのは最後の項目、「協力的であること」だ。
世の中いろんな客がいる。
どうにかしたい、金はかけたくない、そういう要望だけはいっちょ前なのに、一切協力してくれないといったパターンは最も厄介である。
そういう客は結局、何もかも投げやりで、タダで訪問してどうにかしろと言っているのだ。
そんなのボランティアじゃないんだから、無理である。
出来かねること、訪問の際には料金が発生することなどを伝えると、
その厄介客が若者の場合には「おかしくないですか?」と逆ギレ、ジジババの場合には「年寄りに優しくない」「脚も悪いのに」「障害があるのに」などと同情を買おうとする。
人が動けばカネがかかるのは至極当然のことである。
ソレがどんな内容であれだ。極端な話、訪問一分で解決するようなことでも、出張費は出るのである。
だからこそ我輩は、なるべく損の無いように*2、救済処置的に電話で説明を提案しているのにソレすら嫌がるとは本当に、ワガママにも程がある。
というか普通電話でここまで説明なんてしないんだぞ、即有料訪問すすめて終わりだぞ。ありがたく思え!
と言いたいが、言えない。分かる人は分かってくれるんだがな。
でまあ、ワガママなアホは何言っても無駄なので置いといて*3。
協力的な人には結構時間をかけて説明や操作案内をしたりもするそんな我輩が、一時間弱の時間をかけて*4、パソコンに入り込んだアドウェア*5のアンスト方法を電話口に説明したのが昨日のこと。
その電話口の相手が、この御年90の爺さんである。
この爺さん、先の条件3点を全て満たした完璧爺さん(客)なのだ。
90なのに。
すごすぎる。
高齢になると、
・滑舌が悪くなる
・耳が遠くなる
大体この二点の加齢現象が起き始める。
上記二点が発生した場合。
電話という視覚を奪われた口と耳だけを頼りにしたコミュニケーション手段において、大きな支障をきたすのだ。
実例を挙げよう。
以前、エアコンの件でジジ客と電話で話したときのことだ。※90爺さんと分けるために、この爺さんのことはジジさんと呼ぶことにする。
そのジジさんは、非常に滑舌がよかった。まず出だしは問題なしである。こちらも名乗り相手も「はいはい」言っている。てっきり問題なく聞こえているモノと思っていたがなにやら様子がおかしい。こちらの質問に答えてもらえないのだ。馬鹿でかい声で送話口を手で覆いながらほぼ叫ぶように話すも、びっくりするほど聞こえていない様子。
ここまで聞こえないと、耳への受話器の当て方めっちゃ下手なんじゃ無いかとも思うが固定電話なのでそういうわけでもなさそうである*6。
あまりにこちらの言うことが通じないので、我輩は困った。ジジさんも「聞こえないな…」、「耳が遠くて…」と困った様子である。なんだか申し訳ない、意地悪しているわけでは無いのだが…。
そこで我輩は助っ人、つまり他にご家族がいないかと訊ねた。その言葉自体もなかなか通じにくかったが、ようやく伝わり、「えー…ちょっと待ってくださいね」と言われ、電話口に待つ我輩。遠くで誰かを呼んでいる声が耳に届いてくる。
それからしばらくして呼ばれたらしい人物が近づいてくる音、それから、がちゃがちゃと受話器を手に取る音が聞こえた。
よかった!これで会話が進む!
歓喜していたのも束の間。
はい…と言った電話越しのその声を聞いた瞬間、我輩はすぐに、しまった、と思った。
その声の主は明らかにババさんであった。しかも全く力が無い。ジジさんにはあった声の張りもなければ、言ってしまえばこれ以上に無いほどのヨボヨボ感なのである。
だが確かにババさんはジジさんのご家族なわけで、テメェでチェンジと言っておきながら、やっぱ戻してとも言えない。
それに、もしかしたら聴力はまだまだご健在かもしれん、そうだ、やってみなきゃわからないだろう!やらずに弱音を吐いてどうする!!
「○○様、今リモコンお手元にございますかー?」
「・・・ええ?」
「リモコン、持ってますか?」
「ええ?」
「リモコン、ありますかー?」
「あい…?」
一応お客であるから、最初は丁寧に訊ねるが、結局通じなくては意味が無いので、徐々に言葉を崩したり他の言葉を使うことで相手の脳内辞書の収録言葉と一致させようと試みる。だが、全く聞こえている様子が無い。
「クーラー*7、電源、入ってますかー?」
「○×△☆%?」
それどころか、ババさんの滑舌の関係でこちらまで相手の言ってることが分からなくなる始末。こんなコントみたいなことあるんか…と思いながらも一応必死である。その状況はまるで異国人同士の会話だ。
結局、会話が噛み合うことは無く(お互い異国語だから仕方ないな)。
状況を見かねたらしいジジさんが電話を替わって「子ども達が帰ってきてから、またかけます」と言ってくれ、その電話は終了。ぜひそうしてくれと心から思ったのを覚えている。
このパターンは究極の場合であるが(夫婦なのでボス級)、ジジイと話したら全く通じなかったりババアの場合も然り、こういったことは少なく無い。さすが高齢化社会である。おかげで多少の滑舌の悪さ、ろれつの回ってない感じであれば、何を言ってるか聞き取れるようになったし*8何より根気強くなった*9。
とまあ長くなったが、このように高齢者との会話は難易度高めである。
その点、この90爺さんは、滑舌よし聴力よし、基本の操作もでき、指示通り動けて、見えないないないわからないと言わず頑張ってくれるし、毎度、すげぇなと思っていたのだ。
だが、この日はなんだかいつもと様子が違っていた。
滑舌、こんなんだっけ…?
ちょっと聞き取りづらいのである。まあ我輩が忘れているだけかな、元からこうだったかもなと思いながらそのまま話を進めていると、「ボロボロさん、実はですね…」と話し出した爺さん。
内容はこうだ。
脳卒中で倒れ、今リハビリ中で大分良くはなったが、左半身が麻痺してしまっており、現在片手でしか操作できず時間がかかってしまう、と。
時間がかかることを気にしたように言う爺さんに、なるほどそれでか、と納得しながら、「そうだったのか…!おうよ爺さん気にすんじゃねー!」の丁寧語Ver.を返した我輩。
それから先に述べたように一時間かけ最後に無事解決し、「変なの出なくなった!」とLevel90爺さんは喜んでいた。
良かったですねぇ、と言うと「いやぁボロボロさんはいつもすごいですね」と言われ、そうだ我輩は凄いのだ(説明力が)と内心思いつつ「いえいえとんでもないです」と謙遜で返す。それからなんだか褒めちぎられたり、いつかお顔を拝見したいですね、とか言われたかと思えば、始まる世間話。
「私もね、昔は教員でね、音響関係の機材が学校に導入された頃にその機材を扱えるのが私しかいなくてね」とだから今も他のジジイより凄いんだぞ、と昔取った杵柄的に話し続ける90爺さん。まあべつにこういう話を聞くのは嫌いでは無いが(音響機材が無かった時代か、面白いなぁとか思ってた)、一応さすがに疲れていたので、いつまで話すんだ爺さん、リハビリがてらなのか…と思いながら相槌を打っていた。
そうしていれば、ボロボロさんはおいくつかな?私の孫ぐらいの歳かな?的な事を訊ねられたので、妙に年齢に敏感になっている我輩*10は「二十代ですよ、後半…ぐらいですね」と無駄にぼかしながら回答。
そこから、更にぐいぐい踏み込んでくる爺さんは「ご結婚はされてるのかな?」と訊いてくる。してねぇのにしているとは言えないので、「いえ…」と答えれば、「そうですか。お相手はいるでしょう」と、ホッホッホと笑い出す爺さん。
おいクソジジイ!余計なお世話だよ!!!
怒りだか悲しみだか分からない感情を堪え、なんと言えば良いのかマジで分からず我輩は苦笑い。すると会話が途切れ数秒間互いに無言となり、何かを察したのだろう、ではではと切り出したジジイによって電話はようやく終わった。頑張っただけなのに一気に瀕死にまで追い込まれた我輩は、完全に脱力しきっていた。
まさか、初めての他人からの結婚圧が、親戚でも同僚でも上司でも無く、顔も知らんジジイからなどとは想像だにしていなかった我輩にとって、このダメージはデカすぎた。とくに最後の、相手ぐらいおるやろ当然やろ、みたいな言葉は童貞の我輩にとって、もはや暗殺級である。いや、味方だと思ったらいきなり刺してきやがる感じからすればスパイか…?スパイが紛れ込んでいたのかこの中に!?まあどっちでもいいが…
丁寧に対応してやって、
なんでこんな仕打ちを受けねばならんのか…?!?!!
クソ!!なんなんだよ!!!!ほっとけよ!!!!!
もう一生かけてくるな。
そう思った話である。
余談だが、
爺さんが「リハビリで歩けるようにもなったんだ( ´灬` )」と言ってたので回復早くてよかったですね的な事を話していたら、私と一緒にリハビリしている人はまだ良くならないけど私は結構早かった的な事を言い出し、なんだかんだ人は比較(とくに自分より劣るものと)することで活力を得る生き物なんだな、と感じた。
*1:ちなみに、爺さんは基本的なことを分かっている分、本気で困ったことだけ電話で訊いてくるので、その問題を解決するのは操作が単純ではない。また、説明というのは、白い四角い窓のようなマークが左下にあるので、それを通常のクリックでは無く、右でクリック~とかいうゆっくりで長いものである。
*2:個人的に、人が損をするのをあまり見たくない。とくに金の面で損をしている人間を見ると、損してるううう!!!だめだろ!!ダメ!!!みたいな己が損したみたいな勿体無い気持ちになる、損嫌厨、というかドケチなのかもしれん。
*3:実際には謝り倒して訪問予約に持ち込んでいる。謝罪は我輩のプライド半分を限定的に捨てることと引き換えにタダなので
*4:一応閑散期でバカ暇だから気楽にデキることではある
*5:姑息な手法で製品購入を促す広告型ウイルス。こっそり入ってくる雑魚敵みたいなヤツ。まれにアンストで消えない中ボスレベルもいる。
*7:ジジババと話すにはエアコンよりクーラーである
*8:他の人が分からんとお手上げしていても我輩は分かるなど多い。特技にしても良いレベルである。が、別に嬉しい特技でも無い。
*9:仕事の場合に限る。
*10:我輩は童貞こじらせすぎて年齢に敏感になっている、詳しくはこちら→全てを告白します。20代ですがまだガラケーです。 - ボロボロ皇帝のボロ切れと塊