印象深いおかしな客②の話である。
前回の①はこちら↓
※サムネ画像が気持ち悪すぎてスマン。
今回も我輩が量販店員をしていた頃の話だ(というか①~④まで全部そうだが)。
19~20歳ぐらいの頃だ(2014,5年あたりと思われる)。
ある日。普通に仕事をしているときのこと。
インカムから「情報担当さーん情報担当さーん、どなたかお手すきでしょうかー。LANケーブルコーナーで女性のお客様お待ちでーす、どなたか対応入れますかー」と呼びかける声が聞こえてきた。
「はーい、ボロボロ対応入りまーす」
と返事をし、LANケーブルコーナーへと向かう。
そこにいた女性を見た瞬間、我輩は、うわ!最悪だ!と、思った。
話は遡る。
我輩はこの女性を対応したことが、過去に2度ほどあった。
いずれも、呼ばれたので行くと、この女性がいた、といった感じである。
女性の年齢は大体30後半~40代ほど。長めの黒髪で、見た目は普通。
普通なのだが、彼女は普通じゃ無い。
まず、話が長い。
それは商品に関することではない。
商品に関することであれば異様に長くても、まだマシである*1。
というか、最初は商品のことを訊ねてきているはずなのだ。
だが、途中からそうではなくなっている。
全く商品とは関係の話になっており、そしてやや怖い。
ヤベぇ、この人キレさせたら何かされそう…みたいな不安を感じる。ので、彼女の対応に入ってしまった日には、とにかく気に障ることの無いように対応を終える、というのを心掛けていた。
この女性は忘れた頃に、少なくは無い頻度で来店していたので、恐らく彼女のその特性を知っている販売員は我輩以外にもいただろう。
話は戻り、うわ!最悪だ!と思った我輩。
しばらく彼女の話を聞かされていたと思われるインカムで呼びかけてきたパート社員は、疲れたような顔をしていた。
パート社員から引き継ぎ、対応を変わった我輩。長丁場になることを覚悟した。
このとき、彼女がしていた商品についての質問は全く覚えていない。
商品とは全く関係の無い話が9割を占めていたので、これはやむを得ないと言えるだろう。
にしても、どういう流れでこの話に持ち込んでいたのか。今考えれば彼女の会話テクニックはある意味凄いのだが、その日もいつもの流れで、
「わたし事務の仕事してて、毎日隣の席の人が私の悪口を言ってきてね、いつも嫌な思いしてるの」
というような事を言い出した*2。
「そうなんですか…お仕事中に、ですか…?」とか初めて対応したときは言っていたような気もする。2,3度目からは、「へぇ、そうなんですか…大変ですねぇ…」とかなんとか返答していたような。
「そうなの、いっつもグチグチグチグチグチグチ――」
この、グチグチと言うときの彼女の顔は、ちょっとまともではないと分かるものだった。普通は見せない異常な憎しみである。
「聞こえてるっつーの!…って感じ」
マジでこのときの形相が怖すぎて、我輩はこの辺の言葉をめちゃくちゃ覚えている。
この、「聞こえてるっつーの!」、という彼女の怒りの対象者への恐ろしい表情からの、「って感じ」でこちらに見せる同調を求めるような愛想笑い的なもののギャップは、正直言ってゾッとするものがあった。おかしさ溢るるのだ。
その後も、周囲からバカとか嫌がらせのように文句をずっと言われてるとかなんとか、わたしも心の中で死ねって言ってやってるとか。この話をしているときの、怒りの表情をしているとき、彼女はこちらを見てはおらず、横の上の方を、思い出すようにそして睨みつけるように見ながら話していた。見ていた我輩はドン引きである。
それからしばらくすれば、名札を見られて、
「ボロボロさんやさしー」
と言われる。これも毎度のことであった。
「あ、いえ…」
そりゃ優しいよな、つか前も対応したけどな、とか思った。そういや毎回名札はチラ見されていたような。
「ボロボロさんほんとやさしー、話聞いてくれて」とか、「聞いてくれてありがとー」とかいう言葉を何度か挟んで、また異常な憎悪的言葉を聞かされる。
たしか、2回目の時はちょっと呼ばれてて、すみません…的なことを言って切り抜けたような気がする*3。「あ、ごめんねー、長く話しちゃって、ボロボロさんありがとー」的なことを言われ、ようやく抜け出せた。
3回目どうやって切り抜けたかは覚えていない。このときは確か夜だったはずだ、そんなに店内も忙しくなかった。なのでピリピリした感情は抱いてはいなかったが、やはりどうしたもんかな、とは思っていた。それは毎回感じていた。
ちなみに、最後にはいつも、彼女から「長くなっちゃってごめんねー、ありがとー」的なことは言われていた*4。なので、本人もまともに思考できる部分で、長話をしている自覚はあったはずなのである。
それと、必ずこちらに、やさしーとかありがとーとか言ってきていたので、自分の話を誰も相手にしない、聞いてくれない、それがいつものことで当たり前の状況だったはずだ。我輩が話を聞く珍しい存在だから、やさしーを連呼していたのだろう(どう切り上げれば良いか悩んでいただけだが)。
ということは、周囲の反応から、自分がおかしいかもしれない事実までは気づいていたんだろうか…?だけど話さずにはいられないから、客と店員という立場もあって、話しやすそうな我輩にここぞとばかりに話しまくった…のか?
完全に自分が正しいと思ってる場合、もっと大胆なヤバい行動に出そうなのである。前回の①のジジイにも言えることだが、彼女にも若干まともな部分(自分がちょっとおかしいと分かってはいる節など)はありそうに感じるが、どうだろう…わからないな。
まあ恐らくというか9割9分、彼女は統合失調症の軽度か中度だっただろう。
状況などを聞く限り、幻聴が聞こえている可能性が高いし(ずっと聞こえてくると言っていたあたり特に)、ぱっと見普通なのに喋ると普通では無い表情をしていたし、そもそも赤の他人にこんな話をずっとし続けるのは、どう考えてもおかしい。総じてまともではないと言える。
どう抜け出せたかはやはり思い出せないが、どうにか抜け出した我輩は、延々憎しみの感情を聞かされた後だからか、単純に長かったからか、それともその両方か、とにかく疲弊していた。というか毎回彼女の対応のあとは疲れていた。
対応を終えて、あとから、インカムで呼びかけてきたパート社員に「大丈夫だった?」的な事を言われたのは覚えている。まあコーナー担当者であるから仕方ないのだが、呼んでくれるなよ、とは思いつつ、「長かったです」みたいなこと返したような記憶がある。
この頃、統合失調症という疾患名を多分知らなかった。
そんな我輩にとって彼女は、とにかくヤバい人という認識であった。
まあ仕事の邪魔ではあったが、ある意味社会経験として良い経験だったかもしれないな。もう同じ経験はしたくは無いが。
それに、彼女にとっても我輩は悪くは無い店員だったと思われる(話を聞く希有なヤツとして)。あの時、やさしー、ありがとー、とか彼女が言っていたが、その感謝に確かに値する、いやそれ以上である!