我輩の職場でもとうとうコロナ感染者が出た。
まあ、粘った方だ。
というのも、業者などを含めると相当の数の人間が出入りし、外勤者も多い環境なのだ。いずれ出るだろうとは思っていたし、逆によく今まで出なかったなと感心レベルである。
ようこそ諸君。我輩はボロボロ皇帝。
我輩の会社は在宅ワーク不可である。
(システム上厳しいし、そもそもセキュリティ・社内ポリシー上の観点で、社内ネットワークから切り離して情報を運用できない)
出勤時に体温をはかり37.5度以上の熱がなければ社内専用入り口から中へと入る。入り口手前にはアルコールあり。
入ってからもアルコールあり。
ロッカールームアルコールあり。
事務所前アルコールあり。
事務所内アルコール多数あり。
みたいな状態だが、残念なことに換気は悪い(場所の問題、壁を外までぶち抜くことはできん)。ので扇風機があちらこちらで首を振っている。意味あるんだろうか。あるって聞いたり無いって聞いたり、あるんだかないんだかわからんがとりあえずやるしかないよな。
あとは大量のパーテーション(透明フィルムみたいなやつ)があちこちから吊り下げられていたり、置かれていたり。
まあなんでここまで必死かなんて、きっとどこの会社も同じだろうが、それは、
誰1人として濃厚接触者判定をもらわないためだ。
1人感染して休むだけでも会社からすれば大変であるのに、濃厚接触者で自宅待機者が増えてしまえば営業、というか存続に関わる。
保健所判断で濃厚接触者は決まる。
こんだけ頑張ってるんだから、見逃してくり〜と言って、日頃の頑張り具合を見せ、
保健所から「おう、お前ら頑張っとんな、頑張っとるなら濃厚接触者おるわけないやろ(^o^)」
→濃厚接触者ゼロ人
と判定してもらうための日頃の保険なのである。
つまり、ウソだろ、濃厚接触者おらんわけないやろ!というような営業形態であっても、濃厚接触者ゼロとなっている場合には、その場所は感染対策にとても力を入れ頑張っている(か、保健所にコネがあるか)ということになるであろう。
とまあ、我輩の職場で感染者が出たときも、保健所判定では濃厚接触者ゼロ人であった。
だが我輩の務めている会社は結構厳しくやっているので(小売であるから)、とりあえず近くにいたメンバーは結局1週間休職になったが(入社一年目のやつなので大して影響ないと踏んだかもしれない)。
現在その感染者は無事復帰し、勤務している。
今回はこの元感染者のお話である。
彼は、部署内の副の立ち位置にいる、つまり上長、上役である。ちなみに我が部署、副が二人いてややこしい。とりあえず彼のことはS氏と呼んでおこう。
S氏は我輩と違う課に所属している。
ちなみに後遺症について話すにあたり必要(あったほうが面白い)なので、彼の事をザッと説明しよう。
S氏について:40代半ば〜後半ぐらい。異様に通る声をしており尚かつ声がデカいのでどんなに声を潜めても割と聞こえる(異動社員の名前をコソコソ話してるはずなのに丸聞こえだったのは面白すぎた)。ついでに体もデカい(屈強感)。酒+女=好きみたいなタイプで、品の無い冗談を言って笑っているのもよく聞こえる(自分より上の者がいたら真面目にしている)。また、自分の身体的特性を非常によく理解しており、己の魅せ方が上手い(まるで自信の権化。このことはのし上がってくるのに重要な役割を果たしたと思われる)。上には弱く、下には結構力を誇示するタイプであり、近くにいると恩恵貰えそう感が凄いので下にも慕われている。
つまり長い物に巻かれる精神を持っていそうだが、彼自身も長いものでありめちゃくちゃ巻き取って来た下の奴らを大勢従えている、強いやつである。
彼をイラストで表すのならこんな感じだ↓
※まあまあ似ているのでちょっと心配になった。
そんなS氏復帰後、最近の話である。
我輩の所属する課からすれば、言ってしまえば管轄外の内容が舞い込んできたタイミングであった。
その今まさに手に持っているこの管轄外の内容を、その業務を行うに相応しい課へと投げる引き継ぐべく、立ち上がった我輩。
正しい課はS氏の所属する課である。
我輩の席からS氏の席までは、間にデスクの列が4つほど、パーテーションも4つぐらいある。
もはや透明フィルムの透明度も低くなっており、ぼんやり姿のようなものは見えるが、彼の状態は見えない(我輩の目が悪いというのもある)。
S氏が席に座っているのを確認した我輩は、お、戻ってきてるやんけ、と思い、S氏の元へと歩いていった。
徐々に縮まる我輩とS氏の距離。
あれ?
なんだか、
様子が…
おかしいな??
わー!!
デコに冷えピタ貼ってるー(^o^)!!
S氏、本当にこのような顔であり先に述べたように身体もデカイため、
驚くほど冷えピタが似合わない。
ちょ、回復してないんか、という思いと、S氏×冷えピタがバカみたいにミスマッチで
ンフッ…
と笑ってしまった我輩をS氏は見ようともせず、なんだかわからんがPC上のシフトが入力されているエクセルファイルを凝視している。
なんかめっちゃ話しかけられたくなさそうにしてんなーと思いながら、我輩はS氏へ話しかけた。
「すみません、あの今…ちょっといいですか?」
反応はやや鈍く、一応、「うん…」と応えたS氏に、いつものような覇気は無く、やはり全然承諾したくはなさそうであったが、構わず我輩は続けた。
「――で、○○が」
S氏からの相づちはない。我輩は話し続ける。
「――という状態なので、引き継いでもいいですか?」
※話しかけた時に相手の反応が薄くても、なんなら無くても、仕事上だと我輩はあまり気にしない、というかさすがに気にはなるが間違ったことはしてないので基本は己を貫くのみである。こっちが全部話し終わってから反応があるなら別に良い。それでも無反応だと「聞いてますか?」とか言ったりする。ごめん聞いてなかったと言われたらさすがにキレそうになる。
シフトから目を離さないS氏は我輩が話し終えると口を開いた。
「ごめん、これ…」
「ハイ」
「Hに言ってくれるか…」
※H=S氏と同じ課、社員H氏(30代)、休憩で不在
えー、めんどくさいな。我輩全部話したのに、だったら話させんなよなーとか、思いながら、「あ、わかりました」と言った我輩。
最後に、
「あの、ソレ…」
「ん?」
「大丈夫ですか…?」
耐えきれず、S氏のデカさのせいで子供用みたいになってるデコのソレについて、触れてみた(笑いを堪えながら※半分笑ってたかもしれん)。
ああ…、と、ああこれね的に声を発したS氏。
「今から帰る」
あー!帰るんかーい!なんで来たんだよー!
だから今からシフト調整しようとしてる…と言うS氏に、
「あ、そうだったんですね。大変ですね…」と返した我輩。
なるほどそれでシフト見てたんか、本当にキツかったんだな、笑ってすまん、 と1ミリぐらい思いながら席に戻り、休憩から戻ってくるであろうH氏を待った。
それからその日の夜。
退社前にほとんど誰もいなかったので、H氏に訊いてみた。
「Sさん大丈夫っすか?早退したみたいですけど」
H氏はパソコンから目を離さず、
「あー」
一瞬何か言葉に悩んだ様子だったが、
「もうSさんはいないものと思って」
えー!!そんな!!!
予想外の言葉が飛んできて驚きながらもはや反射で、
「えっわかりました」
と答えた我輩の声は完全に笑いに震えていた。
後遺症ですかねぇ、と言うと、うーん、状態が良くない、みたいなことをH氏は答えた。
※H氏は優しい人間なのだが、職人気質すぎてオブラートと言うモノが下手であるしあまりオブラートを考えてもいないだろう。事実を手短に言うタイプである。この言葉も悪気が無いのは確実である。
更にまたその数日後、まだまだS氏の状態は良くなっておらず。
所長がH氏に、
「Sさん体調どんな感じですか?」
と訊ねているのが聞こえた。
またも、んー、と、意味も無く一瞬言葉に悩んだ様子のH氏。
「毎日来て毎日帰りますよ」
あー!毎日早退してるんだ!つかなんだ毎日来て毎日帰るって!なんで来てるん!?もう休めよ!!
所長は、「あっ、そうですか、やっぱまだ本調子じゃないんですね」とか返していたような気がする。
我輩は離れた席のその会話が聞こえるので、ただ笑いをこらえるのに必死だった。
もはやH氏の発する言葉はほとんど揶揄だが、H氏はS氏の毎日出勤毎日早退で一番割を食っていそうなので精神的にも疲弊していた可能性は大いにあるし、仕方が無いと言えよう。
もう1ヶ月以上経過しているが、S氏の体調はまだ万全では無い様子である。
それというのも、隣に併設している量販店売り場のちょっと癖のあるデリカシーゼロ系の明るい店長が高頻度でやってきては、「Sさん、どう?調子は」とかまあまあの頻度で訊ねるのが聞こえるからだ。
それに対して本人が、「まあ8時間は働けるようになりました、万全ではないですけどね」と返しているのが聞こえたのが2,3日前のこと。
早退しなくなったんだな、でもまだ調子よくないのか(^o^)、と思いながら、まあそれでも我輩は仕事のことになったら彼に話しかけるし頼み事もする(スマン、仕事なのでな)。
とまあここまで、屈強な男でもコロナにかかるとこんなことになっちまうという例であった。
他人事のように面白がっていたがもちろん他人事では無い(他人事だが他人事ではないし単純に冷えピタは面白すぎる)。
なんたって、「同部署内の人物を格ゲーキャラとして使うなら真っ先にこの人を選ぶだろうと言うくらい強そうでデカいS氏」が、後遺症にやられている現実を目の当たりにしたのである。
ちなみにこの後遺症に関しては、無い人がほとんどだとか、確証を得られない情報が結構飛び交っていて本当に分かりづらい。
気になった我輩は、ちょうどS氏以外にも、同じ職場で働く別会社(業者)の人に、以前、感染者が現れていたので、その別会社の人へ「後遺症ってあったんですか?」と訊ねてみた(感染者本人にはさすがに訊けないので同会社の人に)。
曰く、やはり耳鳴りと嗅覚異常が続いていたとのことである。
身近に感染した人が現れたことにより、
コロナには後遺症が確かにある、しかも低頻度ではなさそう
というのがハッキリした話であった。
今までもそうだったがこのことがあってからは尚、ただの風邪とはやはり思えないと、個人個人がしっかりと感染対策を行うべき(意味もなく変な反抗心から嫌嫌したりせず、マスクも当然のようにしろと…)、と我輩は感じている。